開業後の動き方

行政書士の取扱業務・専門業務の決め方

行政書士の取扱業務・専門業務の決め方

取扱業務や専門業務の決め方については、開業する方からたくさん質問をいただきます。
ここでは、取扱業務や専門業務を決める時の基準やヒントについてお伝えします。

何をしたいのか、何が出来るのか

行政書士として開業する方は、社会貢献をしたい気持ちや独立心の強い方が多いと思います。
これだけ「食えない資格」としてネガティブ意見が溢れる中で、それでも勉強して資格を取って、さらには、独立開業を決めるのですから、その決意は並大抵ではないはずです。

もちろん、単なる資格として取得する人もいますが、その場合、開業までには至らないでしょう。
目標もなく開業する人がいたとしたら、その人は1年も続かないでしょう。
開業は、資格取得以上に難しく、厳しく、自分自身の資質を試されるものだからです。
また、プライドが高い人ほど、諦める速度が速いようにも思えます。

そんな中、開業し継続できる人には、「行政書士になってこれがしたい」という想いや目的があります。
この想いや目的も大切ですが、実は「これがしたい」だけでは続かなくて、「誰を助けたいか」「誰を助けられるのか」を明確にすることが重要です。

例えば、自分の周りや友だちに独立している人がいて、その人たちの支援がしたいとか、自分と同じ経験(離婚、母子家庭、障害を持つお子さん、うつ病など)をしている人たちの力になりたいという想いを持つ方は、その想いを継続することができるはずです。

他にも、これまでの社会経験を生かした業務を専門にしている方も継続できています。
介護や障害福祉の職についていた方が、行政書士として障害福祉サービス施設業務を専門にする、司法書士事務所に勤めていた方が、相続手続きや遺言書業務を専門にするような場合です。
すでに業務の概要がわかっているため、問題なく実務がこなせるケースです。

前者は、助けたい人が明確で、後者は、助けられる人が明確になっています。
出来ればこの2つが同じ人だといいのですが、一致しない場合は、まずは「助けられる人」に向けて業務を選ぶといいでしょう。

もし、花形業務だからと建設業許可を選んだとして、建設業のことをまったく知らない場合、実務でもお客様からのヒアリングの時も苦労するでしょうし、お客様にも不安を与えるかもしれません。
もし、入管が流行りそう、儲かりそうだからと選んだとして、外国人が日本に来る理由や、外国人を企業が雇う背景や条件などにこれまで触れてこなかった場合、間違った仕事の仕方をするかもしれません。

時代を読むのは大切ですが、「これが儲かりそう」という動機は、おすすめしません。そんな動機で続けられるほど、業務はラクではないからです。
どの業務も、面倒ですし、責任重大ですし、その上、単価が下がっています。

「どうしてもこの人のためになりたい!」という気持ちがないと、やりがいが感じられなくなるかもしれません。
自分が誰を助けたいのか、また、今すぐ誰を助けられるのか、書き出して考えてみることをおすすめします。

売上目標が達成できる業務なのか

もう1つ、重要なポイントは、「売上目標」です。

先ほど「単価が下がっている」と書きましたが、これは士業全体に言えることかもしれません。
ネット広告の影響が大きいと思いますが、ネット上で料金が比較される業務は、特に単価が下がっています。
もちろん、下げているのは同業者です。

「うちが業界で一番安いから、依頼してください!」と、ネット上で広告することで安さを売りにする行政書士がいると、それに勝つためにさらに安くする同業者が現れます。
特に都内の花形業務の価格競争は止まりません。

15年前には15万円だった建設業許可は、今は5万円以下で受けるところもあります。
試しに「建設業許可 格安」などでネット上で検索してみてください。どれだけ安い料金を提示しているのかがわかると思います。

売上目標を達成するためには、単価は重要です。

例えば、年間売上1,000万を目指す場合、単価が1万、2万の仕事では、月に50件では足りません。ひとりではキツイです。
できれば顧問業務のような継続型収入もほしいですし、少なくとも単価10万以上の仕事を取りたいですよね。

売上が月5万でいいという方なら、単価1万、2万の仕事でもいいはずです。
売上目標をいくらにするのかで、取扱業務や専門業務を何にするのかも決まって来るでしょう。

もちろん、売上だけがすべてではありませんし、売上以上に大事なものもあると思います。
ただし、売上がなければ、事務所経営は続きません。精神的にも不安になり、活動にも支障が出ます。
想いだけでは続かないことも、頭に置いておきましょう。

また、周りに単価を合わせなくても、依頼される場合もあります。

例えば私は、会社設立のための定款作成・認証、議事録作成を10万に設定していますが、それでも年に数件依頼されています。
会社設立業務はホームページからもはずし、まったく表示していませんが、知り合いや顧問先からの依頼があります。
お客様からすると、安くお願いしたいのではなく、これまでの関係性で信頼している私に依頼したいのです。
価格競争に巻き込まれないような流れを作れば、周りに単価を合わせなくても依頼が来ます。周りに合わせて、値段を下げる必要はありません。

無くならない業務なのか

行政手続きは、次々と電子申請できるようになっています。
それに伴うように、クラウド会計のfreeeは、2015年から始めた無料会社設立に加え、2022年には許認可申請まで無料で扱うようになりました。
行政書士に頼まなくても自分で申請できる時代が、少しずつ近づいています。
おそらく、簡単な手続きから、依頼は減っていくと考えられるでしょう。

自分が取扱業務がこれからどうなっていくのか、電子化によって仕事として無くならないのか、しっかりと見極めていきたいものです。
取扱業務や専門業務を1つに絞ってしまうと、それが無くなってしまった時にすべてが終わってしまいます。
リスク管理として、2つ3つの業務を持つことをおすすめします。

行政手続きが電子化され、どんなに便利になったとしても、それでも誰かに依頼したい人はいます。
面倒な手続きは、お金を払ってでも自分はやりたくないと考える事業主や企業はゼロにはならないはずです。
大切なのは、「あなたに頼みたい」と思ってもらえる関係性を作ることです。
信頼性を築けるような取扱業務や専門業務を選ぶことも大事でしょう。

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